★ジャンル別雑文集&ホームページ作成
&JavaScriptゲーム★

雑文の小部屋ホームページアドレス
★当サイトは"JavaScript"を有効にして
ご利用いただくと便利です★
恋愛運が高まったら

 電車は心地好い振動を背中に与えるだけでなく、どこか遠くに気怠い響きを残しながら進んでいた。
 長く連なる車両の後ろから二番目に小川正志は腰を掛けていた。しかし、彼がそこにいることを気に留めた者は恐らくいなかっただろう。確かに彼は、いつだって特に目立たない、まるで空気のような存在だった。
 彼の右隣にはサラリーマン風の中年男性、そして左隣には女子中学生の三人組が座っていた。その女子中学生達は最近はやっている夢判断の話題で盛り上がっていた。一人の子が昨晩の夢の内容を説明し始めると、夢判断の解説書を手に持った別の子が何かキーワードになる言葉を選んで、その本に書かれてある文章を大きな声で読み始めた。時々、彼女達のキャピキャピした笑い声が車内に響いた。
 自分の近くにいる他人の会話の内容がつい耳に入ってきて、思わず笑いそうになるのを必死にこらえたという経験はないだろうか。あるいは、その人達の笑いにつられて一緒に吹き出してしまったという気まずい経験はないだろうか。
 もしこの時、女子中学生達の話しを聞いていたら、彼もきっとそうなっていたに違いない。しかし彼は、自分の隣で交わされている会話の内容はもちろん、隣にどんな人がいるのかさえ全く気づいていなかったのだ。だから、なぜ中学生がこんな時間にこの電車に乗っているのか不思議にも思わなかった。
 「それにしても不思議な夜だった」
 「やっぱりあれは夢だったのだろうか?」
 彼は何度となく、そんな言葉を心の中で繰り返していた。
 ふいに駅名を告げるアナウンスが車内に飛び込んできた。彼は視線を上げて、訳もなくぼんやりと辺りを見渡した。平日の昼前なので車内は比較的空いていた。彼の向かいの席には、母親らしき女性に連れられた四歳くらいの女の子がちょこんと腰を掛けていた。そして、その子の赤い帽子のずっと先には空色の風景が広がっていた。
 今日からもう11月だというのに、暖かそうな、しかも気持ちのいいほどよく晴れ渡った日だった。彼は何かを思い出したかのように、窓の外に見える遠くの山や畑、それに最近建ち始めた多くの建物を眺め始めた。しかしそこには、大学への行き帰りにいつも見慣れている神戸線の風景が、昨日と少しも変わらず佇んでいるだけだった。そして、そのことが彼をほんの少しだけ残念な気持ちにさせた。
 彼はふと腕時計に目をやった。時間ならだいたいわかっていたし、時計を気にしなければならないような用事もなかった。彼はいつもの習慣で腕時計を見たに過ぎなかった。それが証拠に、隣の中年男性に時間を聞かれて、あわてて彼はもう一度見直したほどだ。
 数人の乗客と入れ替わりに女性が数人乗って来たかと思うと、電車は再び走り出した。
 「やっぱりあれは夢だったのだろうか?」
 彼はまた心の中でそうつぶやき始めた。夢か現実か、そんな疑問が彼の脳裏をかすめると同時に、その結論を出すために彼は、昨晩のあの体験を再び最初から最後までたどり始めるしかなかった。その記憶は何時間かたった今でも、不思議なくらい鮮明だった。
 「チャチャ」
サイトトップページ<< 小説1 >小説2
皆様のご質問やご意見をお待ちしています。
下記バナー画像からメールが送信できます。
雑文の小部屋メールアドレス
JavaScriptゲームゲーム作り方JSサンプル
JSツール便利ツールリンク集
Copyright (C) 2012-2018 雑文の小部屋 All Rights Reserved