次の駅で乗客の数が増え、私はいつしか彼女の姿を見失ってしまいました。終点で電車を降りた時、すかさず私は
「さっき電車の中で女の人がストッキング穿き替えてたのに気づいた?」
と聞いてみたのですが、誰も気づかなかったようです。そればかりか、私の話しを信じようとしません。
「なんぼなんでも電車の中でそんなことする人おらんで」
「ほんまや。目の錯覚とちゃうか」
などと言われて散々でした。
あれから10年。世の中には様々な事件があふれるようになり、意外なスクープにもすっかり慣れっこになってしまいました。しかし、直接自分が目にした事件は、とりわけ深く印象に残っているもの。あのシーンは私にとって一番インパクトある映像として、その地位をいまだに他のスクープに譲っていないのです。もっとも、そのことが、嬉しいような寂しいような複雑な心境にさせますが。
(完)