ちょうどその時、部屋じゅうに白っぽい霧のようなものが立ち込めてきて、彼の視界を完全にさえぎった。彼がぼうぜんとしていると、すぐにその霧はひいていった。その直後に彼は、部屋の中央に誰か人が立っているのに気づいた。
普通であれば彼は、大声をあげて助けを求めていたか、もしくは気絶していただろう。しかし彼は、こんな不思議なできごとは夢でないとありえないと思い込むことができたから、急に恐怖心がなくなってしまった。
その人の輪郭ははっきりしていた。いわゆる幻のような印象ではなかった。その姿形は女性だった。しかも普通の人間の女性と全く変わりなかった。彼がその女性をじっと見つめていると、彼女も彼を見つめ返してきた。かわいさと美しさをミックスしたような顔立ちだった。年齢はたぶん自分と同じくらいだと思った。ただ、服装は少し人間離れしているように感じた。つまり彼女は、絵本などによく登場する妖精や天女が着ているような白っぽい羽衣のようなものを身につけていた。そして、彼女の胸元にはプリズム色の玉のネックレスが輝いていて、彼女自身の美しさをより一層引立てていた。
彼は彼女がずっと昔からの友達であったようななつかしさを覚えた。彼女が机のところに置いてある椅子に腰を降ろしたので、彼もベッドに腰掛けた。その後彼女は、彼に気さくに話し掛けてきた。
「私は水晶の妖精で、名前はチャチャというの」
「僕は小川正志。大学の3回生」
「そんなことずっと前から知ってるわよ」
「それで、僕に何か用?」
「あなたの恋愛運は11月からいいということは知ってるでしょ?」
「そう言えば、雑誌の占いにそんなことが書いてあったけど」
「そう、そして宝石を身につけていると最高にいいって書いてあったでしょ?」
「うん、確かに雑誌にはそう書いてあった」
「だから、あなたは私を拾ったんじゃないの?」
「いや、それは・・・・・」
「恋愛したいんでしょ?」
「そりゃ、できれば・・・・・」
「男だったらはっきりしなさいよ」
「はい。したいです」
「よろしい。安心して。私が協力するからもう大丈夫よ」
「と言うと?」
「つまり、私には人の気持ちを自由に動かすパワーがあるから、そのパワーを使えぱあなたの思い通りに恋愛を成就させることができるってわけ」
「えっ、本当にそんなことできるの?」
「信じなくてもいいのよ」
「いえ、信じます。ご協力よろしくお願いします」
「ええ、任せておいて。あなたはあの水晶玉をズボンのポケットにでも入れて持ち歩くだけでいいわ」
「うん、わかった」