いきなり、少し前を歩いていた伸吾の声がしました。
「おい、どうしたんだ?」
「いや、なんでもないよ」
亮太はあわててその鍵を拾い上げ、さりげなくズボンのポケットに押し込みました。自分だけのちょっとした秘密の宝物を手に入れたような気分でしたが、1時間目の授業が始まる頃には、鍵のことなんかもうすっかり忘れてしまっていました。
その日の国語の授業で、亮太のクラスでは作文を書くことになりました。『将来こんな人生を送りたい』という内容で自由に書きなさいということでした。しかし、亮太の鉛筆はなかなか動き出しません。
伸吾だったらきっと、大好きなサッカーのことを書くだろうな。たとえば、プロのサッカー選手になって、シュートをたくさん決めて、引退後はチームの監督になりたいと書くだろうな。