四人で近くのスナックに行った。大橋は相変わらず上機嫌ではしゃいでいた。彼女達も彼のエッチな話しで結構盛り上がっていた。正志はこういう派手めの女性はどうも苦手だと思った。最初彼女達は、今夜は夜じゅうとことんつきあう、と言っていたが、10時を過ぎるとあっさりホテルに帰ってしまった。正志はいくぶんほっとしたが、大橋はかなり悔しがった。
「あれはいけてたぞ。惜しかったなあ。もう少し、小川もしゃべろうぜ。せっかく盛り上がりかけてきた場が白けるじゃないか。もう少しであれはいけてたぞ。でも、まあ、こういうのも一つの経験やからなあ」
正志と大橋は高い授業料を支払って、駅で解散した。
その翌日の午後、正志は大学の廊下で偶然にも靖子とすれ違った。正志はどうしても彼女に北海道旅行の真相を確かめたくなった。
「あっ、ちょっと。吉田さん」
「あっ、小川さん。こんにちは」
「この前の北海道の話しなんだけど、あれって本当?」
「あれって、なんのことですか?」
「だから、月火水に二人で北海道に行ったっていうこと」
「もちろん本当ですよ。それがどうかしましたか?」
「いや、実は火曜に君にそっくりな人を見かけたもんで」
「えっ、やっぱり、ばれました? 小川さんにはかなわないなあ」
靖子はそう言って、笑い出した。正志はさらに続けた。
「どうして二人で嘘をついてたの?」
「私も不思議に思ったんですけど、どうしても美貴ちゃんがそういうことにしておいてくれと頼むんです。実際に行ったのは土曜の夕方から月曜の夕方までだったんですが、どうしても月火水にしてくれって言うから、ちょっと協力してあげただけなんです。彼女も男性関係でいろいろありそうだからアリバイを作ってあげないと。写真の日付まで細工して彼女も手の込んだことしますよねえ。あっ、それから、私がしゃべったってことは彼女には絶対内緒ですからね」
「わかった。もちろん誰にも言わない」
と言って正志は靖子と別れた。廊下を歩きながら彼は、美貴が一体どういうつもりなのか考えただけで無性に腹が立った。そして、彼女とはもうああいったつきあいはよそうと決心した。
同じ日の夕方、正志は帰りの電車の中で放送部のマドンナと一緒になった。一緒になったと言っても、単に同じ車両に乗ったというだけであった。耳元のピアスと髪のカチューシャがおしゃれだった。正志は最初、ぼんやりと眺めていただけだったが、手を伸ばせば届きそうな距離にいる彼女に声を掛けてみたくなった。
正志はなんと言って切り出そうとさんざん考えた末、ようやく声を掛けようとした。ちょうどその時、ふいに大橋の横顔が正志の目に飛び込んできた。正志は大橋がこんなところにいるとは思っていなかったので、ちょっと驚いた。しかし、すぐに気を取り直して、今度は大橋に声を掛けようとした。そして、正志が足を一歩前に踏み出そうとした時、大橋とマドンナが寄り添いながら仲よくしゃべっていることに気づいた。