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 そうだったのか。知らなかった。正志は心の中でつぶやいた。そして、彼は素知らぬ顔をして、次の駅で別の車両に移った。マドンナに声を掛けなくてよかった、彼はつくづくそう思った。

 次の日曜、正志は久しぶりに大阪に出かけた。特に何か用があったわけではない。ここ2週間ほどのあいだに神戸でバタバタといろいろな事件が起こったから、気分転換に大阪にでも行ってみようと思ったからだ。それともう一つ、最近外泊とか深夜帰宅とかで、めっきり家にいる時間が減ったので、もしその理由について母親や妹から質問されると、答えるのに苦労しそうな気がしたからだ。
 正志はあてもなくぶらぶら歩いていた。新たな出会いが大阪の街であるかもしれないとも思った。しかし、実際には何も起こらなかった。時計を見るとまだ帰るには時間が早過ぎた。目的もなく一人で街をぶらぶらしながら時間をつぶすのが、こんなにも苦痛だとは知らなかった。
 しかたなく彼はそろそろ帰ろうかと思い、駅の方へ歩いて行った。少し行くと、待ち合わせ場所としてみんながよく使っているスペースに出た。彼自身も大阪で待ち合わせする時に何度かここを利用したことがあった。特に急ぐ必要もなかったので、彼はここでいろいろな人を観察することにした。もしかすれば、小説を書く時のねたになるかもしれないと思った。
 時計を何度も見ている人もいた。行ったり来たりうろうろしている人もいた。いらいらしている人もいた。遠くを眺めながらぼんやりしている人もいた。しゃがみこんで本を読んでる人もいた。騒がしい女性三人のグループもいた。ナンパしようと声を掛けまくっている高校生らしき男子二人組もいた。実にさまざまな思わくを持って、さまざまな人がそこにはうごめいていた。
 正志のすぐ隣には25歳くらいの男性がいた。正志がそこに着いた時からすでにその男はいたので、少なくとも30分以上はいたに違いない。男が誰か人を待っているのは明らかだった。男は少なくとも3分おきに時計を見ていた。ようやく、その男にも待ち人が来たようだ。
 「ごめんなさい。出かけるのに手間取っちゃって。だいぶん待った?」
 「いや、今来たところ」
 「本当? だいぶん待ったんじゃない?」
 「いや、実は僕も遅れちゃって。だからさっき着いたばっかり」
 「そう。よかった」
 まるでドラマでよくありそうなこんな会話を聞いて、正志は吹き出しそうになるのをこらえ、寄り添う背中を見送った。
 その時突然、正志の背後から女性の声がした。
 「大野さんですか?」
 正志はまさか自分に声を掛けられてるとは思わなかったので、知らん顔をしていた。するともう一度、今度はもっとはっきりした口調で声がした。
 「大野さんでしょ?」
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