「じゃあ、もっともっと好きになって」
「な・れ・な・い」
「いやっ。そんなの」
「そんなこと言われても・・・・・」
「わかったわ。それでもう十分」
「・・・・・」
「私を抱いてもいいわよ」
正志はあせる気持ちを静めて、麗子の服をゆっくり脱がせ始めた。彼女の純白のスリップは上品な香りを漂わせていた。さらに正志は、着実に彼女の下着を脱がせていった。初めての経験にしては手際よく成功した。彼女の体は若くて美しく見えた。正志の高ぶりはまもなく限界に達し、青春の1ページとなってホテルの闇に消えた。
「私のこと、本当に好き?」
「もちろん」
「15歳も離れているのよ。それでもいいの?」
「もちろん。気にしません」
「てっきり体だけが目当てだと思ってた。それでもいいと思ってたけど」
「そんなのダメです」
二人はまだ熱の冷めやらぬベッドでそんな会話を交わした。しばらくして二人はホテルを後にした。別れ際に麗子が言った。
「また会ってくれる?」
「もちろん」
「じゃあ、また電話して」
麗子の後ろ姿を正志はずっと見送っていた。麗子は正志の視線に気づいたのか一度振り返ると、正志に微笑みながら手を振った。その微笑みは二人だけにしかわからない秘密の合図のように思えた。正志は男の仲間入りができた自分が誇らしく思えた。そして、麗子に夢中になっていく自分がそれ以上に恐かった。
その2日後の木曜の午後、正志は次の約束をしようと思い麗子の家にダイヤルした。彼はこの2日間ずっと麗子の声が聞きたくてしかたなかった。だから、耳元に彼女の声が飛び込んでくるのを弾むような気持ちで待っていた。ところが、受話器から聞こえてきたのは落ち着いた中年女性の声だった。
「はい、もしもし」
「石井さんのお宅でしょうか?」
「はい、そうですが」
「小川といいますが、麗子さんいらっしゃいますでしょうか?」
「・・・・・」
「もしもし。麗子さんお願いしたいのですが」
「娘は、娘は亡くなりました」
「えっ、亡くなった?」
「・・・・・」