正志はがくぜんとした。彼の心臓は今にも飛び出しそうなくらいドキドキと高鳴った。さらに、頭をハンマーでガーンと殴られた時のように、目の前が真っ暗になるほどのショックを感じた。そんなことは信じられない。一体何があったというのだ。もしかすれば悪い冗談かもしれない。電話からは微かなすすり泣きが聞こえてきた。彼は失礼だとは思ったが、確認せずにはいられなかった。
「失礼ですが、一体何があったんですか?」
「お答えしなくてはいけないでしょうか?」
「いえ、そんなことはないんですが、先日お会いしたばかりなんで驚いてしまって」
「私どもも本当に驚いております」
「ええ、それはそうでしょう」
正志は後日もう一度確かめた方がよさそうだと思い、とりあえず電話を切ろうとした。ちょうどその時、受話器の向こうから声がした。
「あのう、娘とは一体どういう関係だったんでしょうか?」
「あっ、はい。知り合いです。火曜にもお会いしたばっかりで」
「そうですか。そんなに親しくしてくださっていた人だからお話ししますけど、実は、娘は自殺だったんです。・・・・・今朝発見されました。念のため警察が調べてる最中ですが、遺書がありましたから間違いないと思います」
「そうでしたか。それは何と申し上げていいのやら」
「ところで、お名前はさっき何と言われましたか?」
「小川といいます」
「小川さん? ちょっとまってください。・・・・・小川正志さんですか?」
「はい、そうですが」
「そうでしたか。娘が小川さん宛てに書いた手紙が残されていましたので、それを読んでどうか娘の気持ちを察してやってください」
正志は電話を切ってから、妹の和代に声を掛けられるまで、ぼうぜんと電話の前に立ち尽くしていた。どうして死ななくてはいけないんだ。火曜はあんなに元気だったのに。別れ際にまた会おうと約束したのに。彼は麗子の顔がもう見れないと思うと、悲しさと悔しさが込み上げてきてどうすることもできなかった。そして、それは涙となって正志の頬を流れ始めた。もう誰にもその涙を止めることはできなかった。
手紙はその翌日郵便で、石井麗子の母親から送られてきた。その手紙には次のように書かれてあった。
小川正志様
お元気ですか。私はあなたがこの手紙を読む頃には、もうこの世にはいないと思います。びっくりさせてごめんなさい。