どうしてチャチャに会いたいのだろうか。文句を言いたいからだろうか。それとも相談したいからだろうか。それとも・・・・・もしかすれば彼女が美人でかわいいから会いたいのだろうか。それとも・・・・・もしかすれば彼女のことが好きだから会いたいのだろうか。まさかそんなことはありえない。どうしてチャチャを好きにならなくてはいけないんだ。冗談じゃない。・・・・・でもチャチャにたまらなく会いたい。まさかそんな。でもたぶんそうだと思う。
正志はがくぜんとした。この時彼は初めて気づいたのだ。自分の気持ちがもやもやしていた最大の原因が、麗子ではなくチャチャだったということに。彼はこれまで自分の心に隠された本当の気持ちに全く気づいていなかった。それに気づいた今、正志のチャチャに会いたいという気持ちは強くなる一方だった。
火曜の晩に陽子から電話があった。正志はけじめをつけるためにもう一度会った方がいいと思ったので、陽子と明日会う約束をした。
正志が電話を切った後、和代が部屋にやって来た。
「お兄ちゃん。彼女元気にしてる?」
「うん、まあ」
「そう、それはよかった。お兄ちゃん最近元気ないから、彼女とけんかでもしたのかなあと思って」
「別にけんかなんかしてないよ」
「それだったらいいんだけどね。そうそう。映画のチケット二枚もらったから、二人で行ってきたら」
和代はチケットを置いて部屋を出て行った。正志にとって妹に陽子のことを言われるのが今は一番つらかった。けんかだったらどんなにかよかったのに、と彼は思わずにはいられなかった。
翌日の午後5時、二人はいつもの場所で待ち合わせをしていた。陽子はいつもよりおしゃれをしてきたが、正志にはそんなことに気づいてあげる余裕もなかった。
「歩こうか」
「ええ」
「公園の方まで」
「ええ」
二人は近くの公園の方へ歩き出した。正志も陽子も一言もしゃべらなかった。二人は公園に着くとベンチに腰を降ろした。子供が三人すべり台で遊んでいたが、そのはしゃぎ声はまもなく夕闇へと消えて行った。犬の鳴声が数回遠くに聞こえた。時々吹く風が素肌を冷たく感じさせた。それは、よくありふれた別れのシチュエーションであった。
正志がようやく口を開いた。
「このまま続けていく自信がないんだ」
「たぶんそのことだろうと思ってた」
「俺達別れた方がいいと思うんだ」
「どうしてそう思うの?」
「理由はうまく言えない」