「そんなことないよ。お前こそ白い服の子とツーショットだったじゃないか」
「お前ら二人とも結構やってるなあ。それで、その後何か進展はあったのか?」
と大橋が割り込んだので、二人が口をそろえて答えた。
「ぜーんぜん」
「情けないなあ。ところで、小川はその後どうだ?」
大橋がいきなり正志に振った。
「俺もここ最近はいろいろとあったよ。恋愛と失恋の繰り返しだったなあ」
「うらやましいなあ。俺達は恋愛にすら到達したことがないからなあ」
と佐久間が話しに加わったので、岩本も黙ってはいなかった。
「ちょっと待て。その俺達というのは、もしかして佐久間と俺のことか?」
「もちろん、そのつもり」
「ちょっと待てよ。俺を佐久間と一緒にしないでくれ」
「それじゃあ、岩本は恋愛の経験があるのか?」
「当たり前だ。小学校4年の春に」
四人でどっと大笑いした。正志がその後を続けた。
「でも、俺にとっては結果的にはいい経験になったと思う。自分が一回りも二回りも大きくなったような、そんな気がする」
「なるほどなあ」
岩本がそう言うと、大橋も佐久間も大きくうなずいた。しばらくして、大橋が思い出したように話しを切り出した。
「そうそう、言い忘れるところだった。来週の金曜にコンパがあるんだけど、お前達も行かないか?」
「行く行く」
岩本と佐久間がすかさず同時に答えた。大橋は正志の方を見て続けた。
「小川も行くだろ?」
「うん。行く」
「じゃあ、決まりだ。さっそく手配しとくよ」
そんなやりとりがあって正志はコンパに出席したし、サークルのメンバーとパーティに行ったりもしたし、クラスメイト男女数人で山に遊びに行ったりもした。もちろん、いずれも恋愛にまで発展することはなかった。しかし正志にとって、それらのできごとはそれなりに楽しい青春のワンシーンであった。
正志は以前と変わらぬ実に平凡な日々を送っていた。そういう生活の中で、彼の記憶からチャチャのことが少しずつ薄れていき、彼が大学を卒業する頃には、チャチャの存在すらすっかり忘れてしまっていた。
それから18年がたった。小川正志は妻と二人の子供に囲まれて、それなりに幸せな生活を送っていた。