正志が西村優子と結婚したのはちょうど8年前だった。そして、知り合ったのはその2年前だった。二人が知り合ったきっかけは彼の会社の同僚が主催したコンパだった。最初彼はそのコンパに行くことにはなっていなかった。しかし、直前になってある男性が出席できなくなり、人数合わせのためにどうしても来てほしいと頼み込まれて、急遽彼が参加することになったのだ。
コンパの席上は学生の乗りとは違うものの、それなりに盛り上がっていた。中には花嫁候補を探すのに必死になっている男もいた。
「おとなしいですね」
ふいに一人の女性が正志に声を掛けてきた。そして、正志のすぐ横に座りビールを注いでくれた。その女性が西村優子だった。おとなしそうで、かわいい女性であった。
「ええ。僕はこういうのはどうも苦手なもので」
「そうですか。私もあまり得意じゃなくて。私、西村優子といいます」
「西村優子さんか。僕は小川正志といいます。どうぞよろしく」
「こちらこそよろしく」
二人の会話はここで一度途切れてしまった。しかし正志は、優子とはもう少し話したい気がしたので、次の言葉を考えて再びしゃべりだした。
「彼らみたいに初対面の女性とペラペラ話しができる男がうらやましいですよ」
正志がある男の方を指すと、優子もそちらを見ながら微笑んだ。
「でも、今日はお話しをするために来たんでしょ?」
「それはそうだけど。今日は実はピンチヒッターなんだ。急に出席できなくなった男の代わりで来たんだ」
「それじゃあ、もう決まった人がいるんですね」
「いや、それが全然なんだ」
「それじゃあ、今日せっかくここに来たんだから、もっと積極的にお話しした方がいいんじゃないですか?」
「いや、いいんだ」
「えっ、どうして?」
「もう西村さんと話しができたから」
「・・・・・」
「西村さんと知り合えただけで、今日のコンパの成果は十分だったと思ってる。西村さんはそう思っていないかもしれないけどね」
「小川さん、本気で言ってるんですか?」
「もちろん本気さ」
「私にはまだよくわかりません」
その時、コンパを主催した男が割り込んできた。
「おい、小川。お前も隅に置けんなあ。ちゃっかりツーショットしちゃって」
「そんなんじゃないよ」
「邪魔したら悪いからあっちへ行くよ」
彼はそう言うと別のテーブルに行ってしまった。正志は優子の反応が気になって、ちらっと彼女の様子をうかがった。その時、彼女と視線がばっちり合ってしまい、照れくさい雰囲気になってしまった。しかし、彼は気にせず先を続けた。
「今日の僕はどうかしてる。初対面の人にあんなことを言うなんて」
「いえ、いいですよ。悪い気持ちじゃないし」