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 正志を膝に載せながら、靖子は別の雑誌を読んだり、たまには美貴と話しをしたりしていた。正志は目をつむっていたが、眠ってはいなかった。緊張していてとても眠れそうな雰囲気ではなかった。眠っているふりをするのがこんなにも苦痛だということに、彼はその時初めて気づいた。彼はこっそり美貴がどうしているのか様子をうかがった。相変わらず美貴は雑誌を読むのに熱中していて、少なくとも正志や靖子のことを気に留めた様子はなかった。
 時計が夜の9時を過ぎたので、正志と美貴は帰ることにした。二人が靖子の家を出て歩き出そうとすると、近くには街灯もなく辺りは暗くて不気味な感じがした。もし一人だったら結構恐いだろうなあと正志は思った。
 彼はふと小学生の時にキャンプでした肝試しのことを思い出した。それは小学生の男子と女子がペアになってキャンプ場を一周するという肝試しだった。彼がくじ引きで当たった相手は、以前から彼に対してかなり生意気な態度を取っていて、彼がこの子とだけは当たりたくないと思っていた女の子だった。
 彼はもともと肝試しとかそういうのが苦手だった。ただ、もしもこの子に恥ずかしいところを見られたら、明日からもっとばかにされるかもしれないと思って、彼は何事もなく肝試しが終わることを祈った。その子は彼にぶっきらぼうにこう言った。
 「よりによってあんたと当たるとは思わなかった。男なんだからしっかりしてよ」
 スタートしてみんなの姿が見えなくなった頃、その子はふいに彼の手を握り締めた。そして、しおらしい声で一言だけ言った。
 「恐いの」
 その声を聞いた途端、彼は自分が彼女を守らなければいけないと思い、そう思うと急にさっきまでの恐さがどこかに行ってしまった。彼女は握り締めた手をゴールまで離そうとはしなかった。
 手を握っていたあいだ、彼はまんざらでもなかった。彼女とはずっと昔からの恋人だったような、そんな錯覚さえ起こしそうになった。その事件の日以来、彼女は彼に生意気な態度をほとんど取らなくなった。
 そして今夜、彼はその日のことを思い出しながら、もしかしたら美貴が手を握り締めてこないかなあと密かに期待していた。もちろん、彼女は手を握ってこなかった。ただ、二人は結構寄り添って歩いていたので、何度か手が触れていたかもしれない。
 最初二人は無言で歩いていた。前方には神戸港の夜景がきれいに見えた。この景色は何度見ても新たな感動があるなあと正志は思った。彼はまだアルコールが残っていた。そのせいでちょっぴり大胆な気分になっていたので、彼は話しを切り出すことができた。
 「藤井さんも一人暮しだろ? 今度は藤井さんの家に遊びに行ってもいいかな?」
 彼女は返事をしなかった。正志は彼女が怒ったと思い、あわてて先を続けた。
 「やっぱりダメか。冗談で言っただけだからそう怒るなよ」
 「別に怒ってませんよ。それにダメとは言ってないでしょ」
 美貴はそう言いながら微かに微笑んだ。

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