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 「よかった。それじゃあ、明日の昼の12時に駅前で」
 「うん、わかった。明日の12時に」
 「楽しみにしてます。それじゃあ、さようなら」
 靖子はそう言うと、またサークル室の方へ戻って行った。この時ふと正志は、チャチャの言っていたことは、もしかしてこのことかもしれないと思った。さきほど川野と討論したように、もちろん彼は靖子がサークルの後輩であることに抵抗があったが、少なくとも自分の方に運が向いてきたことは疑いのない事実のように思えた。
 靖子は素直で明るく積極的な女性だったが、あまり美人という感じではなかった。どちらかと言うと、一緒に歩いていてもあまり自慢できるようなタイプではなかった。でも、正志は彼女のことが決して嫌いではなかった。さらに、彼女のことを気の許せるよき後輩だと思っていた。
 彼は校舎を出ようとした時、放送サークルのマドンナとすれ違った。彼はマドンナの名前をよく知らなかったので、勝手にそう呼ぶことにしていた。彼が彼女について知っていることと言えば、彼女が放送サークルに所属していることと、自分と同じ3回生であることくらいしかなかった。彼は以前から彼女の存在が気になっていて、出会うたびにこっそりと気づかれないようにその美貌を見つめていたのだ。

 その翌日の昼前、正志は吉田靖子との約束の場所に早く着き過ぎた。彼はどこかで少し時間をつぶそうと思い、近くの本屋に入った。ところが彼は、時計が約束の時間になっても戻ろうとはしなかった。15分ほど過ぎたのを確認してから、彼はその店を出た。
 靖子はもう来ていた。彼女は正志の顔を見るなり側に駆け寄ってきた。
 「さあ、行きましょ」
 彼女はそう言って歩き出したので、正志も並んだ。歩き始めてすぐのところに信号があって、二人はそこでいったん止まった。そして、その信号が青に変わり二人が再び歩き出そうとした時、いきなり靖子が正志の腕に自分の腕を絡ませてきた。彼女は他人の目など全く気にした様子もなかった。どうして女の子はこうも大胆になれるのだろうかと正志は思った。その時すでに、彼はかなりどぎまぎしていた。しかし、その直後にもっと驚いたことが起きた。なんと彼の右腕に靖子の胸の柔らかさが伝わってくるではないか。彼は歩くたびに何度となくその弾力を感じた。
 靖子は正志にいろいろと話し掛けてきたが、彼は生返事しかできなかった。つまり、触れているという事実が気になってしかたなかったのだ。彼は彼女がそのことに気づいているのか知りたかったが、この時の彼にはあまり余裕がなかった。と言うのも、初めて経験する気持ちいい感触が、腕から下半身にまで伝わり始めたからだ。彼は意識を何か他に集中しようとしたが、それは至難のわざだった。
 遊園地に着いてからも、デートは終始靖子のペースで進んでいた。正志は遊園地そのものはあまりおもしろいとは思わなかった。彼はもともとああいう乗り物が苦手だった。どうして女の子達はあんなにも絶叫マシーンが好きなんだろうといつも思っていた。
 乗り物の嵐も一段落して二人でアイスクリームを食べていた時、靖子がふいに話しを切り出した。
 「私達恋人同志に見えるかしら?」
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